楽しくわかるニッポン通訳案内--No.2
タイトル:京都を英語でウォーキング
(英訳バージョン)

中山 幸男
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ユニークなガイドの手作りツアー

  日本の通訳案内術の勉強には、実際にお客を連れて案内するプロについて回るのが一番の近道。今回は京都を訪れる外国人旅行者に人気のウォーキングツアーをご紹介しよう。
  主催者はJTBの専属ガイドを34年務めて定年退職された広岡さん。7年前に個人で始めたツアーである。Lonely Planetのガイドブックなどでも紹介されたことで、知名度がグーンと高くなった。
  
広岡さんには、私が新人ガイドの時代に研修でお世話になったことがある。いまでも印象に強く残っているのが、観光箇所の説明時にいつも手にしていた小さな鯉のぼり。子供の日の時期によくスーパーなどで見かけるものだ。それを旗代わりに持てば、団体客の迷子対策になり、お客との会話の材料にもなるので一石二鳥だという。
  新人研修で印象深かったことの2つ目は英語での自己紹介。

 I'm not Johnnie Walker, you know, I'm Johnnie Hillwalker.
 (日本語訳)
  といった調子だった。ご本人の名前に引っ掛けてあるところがミソ。ちなみにウォーキングツアーの名称もHillwalker Tourとなっている。
  ツアーは特に予約しなくても、朝、時間までに集合場所の京都駅前に行くと参加できる仕組み。毎週月水金に催行されている(冬期は休み)。参加費は2000円とお手頃な料金だ。
  時間になって参加客らしい人を見つけると、
 Are you walking ?
 (日本語訳)
  と声をかける。いかにもウォーキングツアーらしい確認の仕方だ。私が参加した日はアメリカ人を中心に、オーストラリア人やオランダ人など約20名の客が集まってきた。広岡さんの案内で歩くのは新人のとき以来なので20年以上も時が経過している。なんだかワクワクした気分になった。

京都のウラのウラを歩く


  コースの所要時間は約4時間半。まず足を向けたのは親鸞上人ゆかりの東本願寺。外国人旅行者の質問は何が飛び出してくるか分からない。到着後、早速、
 Does the water of the moat have any religious significance ?
 (日本語訳)
  といった難問(奇問?)を発する女性がいた。お堀の水を何か聖水のようなものと勘違いしているのだろう。実は同じような質問を私も自分のツアー客から受けたことがある。答えはもちろん「ノー」である。
  本堂では、広岡さんが解説する仏陀の教えなどを参加者は神妙な面持ちで耳を傾けていた。必要なことを分かりやすく短時間に伝えるというガイド術は相変わらず健在だ。
 
 東本願寺の界隈は「寺内町」として古くから栄えて来た町で、数珠や法衣といった仏具を扱う商店が目立つ。付近には扇子や組ひもといった京都の伝統産業の店もある。さらには豆腐屋や畳屋等々。裏通りを縫うように歩くのは、外国人には町の暮らしを通して日本的なものを体験してもらおうという広岡さんの狙いがあるからだ。
  
このあたりの説明では、Buddhist rosary(数珠)folding fan(扇子)braided cord(組みひも)soybean curd(豆腐)など通訳ガイド試験の日本事象の英訳の問題に出そうな単語が目白押しである。もっとも、豆腐についてはわざわざ英訳しなくてもそのままで通じることが多くなった。「豆腐屋」をtofu makerと言ったりする人もいる。
豆腐屋の店先で


○○豆腐屋の店先で

  渉成園という日本庭園でリラックスしたあとは文子天満宮へ。神社に入ると、広岡さん、
 If you warship here, you'll get smart.
 (日本語訳)
  と参加客を笑わせながら、お賽銭をあげていた。宗教関係の話はとかく難しくなりがちなので、こうした一言を入れながら案内するのがうまいやり方である。お賽銭を上げるときに手を叩くことについては、
 It's to get the gods' attention.
 (日本語訳)
  といったふうに説明を加える。
  ここでは宮司宅の一室で、奥さんが着付けのサービスをしてくれる。なんと花嫁用の白無垢まで用意してあった。お茶屋さんが軒を並べる一帯では、芸妓遊びについての講釈もあり、そろそろお腹が空いてくる頃、家庭的な食堂の前で1人1個ずつ稲荷寿司の試食。和菓子屋さんでは、店内で京菓子をいただきながら、日本茶のサービスもしてくれる。
白無垢姿の女性客

白無垢姿の
 女性客














稲荷寿司の
 試食タイム




稲荷寿司の試食タイム
  一息ついて、豊臣秀吉を祀る豊国神社へ。大きな釣鐘の真下で説明をしながら、
 It may fall down anytime soon.
 (日本語訳)
  という広岡さんのジョークに、みんな大笑い。ユーモアを交えた話を聞いていると、あっという間に時間がたってしまう。


○○豊国神社の大きな釣鐘の下で撮影○○
(中央帽子をかぶっているのが広岡ガイド)
○○
豊国神社の大きな釣鐘の真下で撮影
最初のニックネームはダットサン

  そろそろ終着点が近くなった。陶芸家の河井寛次郎記念館の前を通り、清水焼きの製造元では絵付けの見学。いくつか立て替え中の京町屋を見かけると、old houses for townspeople, especially merchants(町民、特に商人向けの古い住宅)いったふうに今度はその説明が始った。目に留まる風景は何でもガイディングの対象となる。
  広岡さんはよくガイド仲間に、自分の英語が完全に日本人英語だと言って謙遜する。中学校時代のあだ名はダットサンだったとか。That is a chair.と言うと、他の生徒にはダットサンに聞こえたらしい。そうした英語も仕事で始終使っているうちに、外国人客にはサッと通じてしまうようになる。日本人英語のレベルにもいろいろあるというわけ。
 
 その後、清水寺に近い五条通りのところでお開きになった。この町歩きツアーには名所を回る観光だけでは得られない楽しさがある。日本人の参加も大歓迎とかで、この日は私のほかに大津市から来たという中年の男性もいた。言葉も大事だけど、何をどう伝えるかがより大切なことというのが広岡さんの持論。
 I'll do my tours as long as I can walk and talk.
 (日本語訳)
  いつまでこの仕事をやるのかという参加客の質問に、そんなふうにコメントしていた。

Hillwalker Tourのご案内
●集合場所:JR京都駅烏丸出口の近く、京都タワー向かいのバスチケットセンター裏。
●受付時間:午前10時〜10時15分 
●問い合わせ:075-622-6803
 
http://web.kyoto-inet.or.jp/people/h-s-love/