いま出版界には淘汰の嵐が吹き荒れている。不況による広告収入の減少がその直接の原因であり、雑誌の廃刊が相次いでいる。広告収入の問題以上に根の深いものとして、出版点数の大幅な増加が挙げられる。1976年から1990年にかけての15年間で、書籍の年間新刊点数は2億5464万冊から4億576万冊へ、月刊雑誌発行部数は13億1519万部から24億8655万部へと増えているのだ。しかし、書店の棚面積は増えていない。急増した出版物が棚からあふれ、書籍は季節商品と化している。なかには一度も読者の目に触れることなく、返本されるものもあるような最悪の状況である。
ほとんどの書籍・雑誌がジリジリと売上げを落とす中で、この15年間に急成長を遂げたジャンルもある。パソコン関連書籍だ。なにしろ雑誌の点数だけでも凄い。軽く50種類以上はある。1980年の段階では『アスキー』『RAM』『I/O』をはじめ、ものの数点しかなかったのだ。パソコン雑誌に対する需要の構造が、パソコンという商品の特殊性を浮かび上がらせる。たとえば『月刊掃除機』といった形で、掃除機の使いこなしの情報を提供しても、ネタが早々に尽きて廃刊となるに違いない。
パソコンは深くつきあえばつきあうほど、情報が必要となる。単にパソコンを仕事に利用するだけでも、続々と登場するハードウェア/ソフトウェアの情報が不可欠だ。
ましてプログラム開発に手を染めたら、非常に多くの情報が必要となる。
特に1992年のように、パソコンに世代交代の時期が訪れたときなど、雑誌が提供する情報でも、まだ不足しているほどなのである。皮肉な言い方をすれば、それほどパソコンは難しい商品だということだ。また、様々な編集方針で雑誌を作れるところも、パソコンならではである。初心者向けの購入ガイドから、『マックジャパン』『DOS/Vマガジン』といった機種別種類別の専門誌。さらにはコンピューターゲームの専門誌など、切り口次第で雑誌が作れてしまうし、それぞれを支える読者がいる。
パソコン雑誌と同じように、急速に本屋の棚面積を増やしているのが、パソコン関連書籍である。
が、書籍と雑誌とは、売れ方が大きく異なる。支える読者層が違うのだ。書籍の大半を占めるのは、初心者向けの入門書である。雑誌が流す情報はあまりに多く、あまりに速いため、入門者はすんなりとその中に飛び込めない。それまでの橋渡し役を担うのが書籍なのである。が、残念なことに、日本のパソコン関連書籍も雑誌も、その質は決して高くない。技術的に誤ったことを平気で書いているものもあれば、そもそも日本語になっていない悪文だらけのものも多い。パソコンと二人三脚で発展してきたこの分野も、自ら質を高める努力をしなければ、近い将来、読者を失う結果となるに違いない。